代行
「やあ。誰かと思えば君じゃないか」
「やあ。誰かと思えば君じゃないか。おや?体の意外な場所にほくろが6つも出ているけど、何かあったの?」
「やっぱりわかる?実はねこれは5年前からだけど週に2日あたりに運転代行サービスのアルバイトをしているんだ。運転者が酒を飲んでしまって運転できないときに代わりにその人が運転して自宅まで送る。これがいい儲けになるんだ」
「便利だよね。しかし代行って当然きついこともあるよね」
「まあね。運転代行しているときに酔っ払いが騒いだり、自分の車にゲロ吐いたにも関わらずその責任を僕になすりつけられたり、儲けはいいけど地獄な出来事はしょっちゅうなんだ」
「実は僕も代行サービスをやっていてね。それもウーバーイーツの代行なんだ」
「ウーバーイーツの代行?」
「商品をネットで注文したお客様にお届けするためにウーバーイーツの配達員が自転車やバイクで向かうんだけど、途中で事故を起こしたとか配達員がコロナに感染したとかできなくなった場合に駆けつけてウーバーイーツではない外部の人間が代行して配達するんだ」
「つまり君はウーバーイーツでも配達員でもない人」
「そうだよね。勝手に店にやってきて配達できない人いますか?と声をかけて2件あるとしたらその2件とも代わりに素人の僕が配達するんだよ」
「私服のままで」
「そうだね。もしお客様に怪しまれたらどんな事情でも「ウーバーイーツ」です。と言わなければならない」
「なりきりだね。」
「そうだよね。だってただネットで注文だから顔どころか声すら知らない」
「けれど代行サービスっていろいろあって実はこれはもう2年前だけど、ある家族が1週間海外旅行をするので代わりに家にいてくれないか?と頼まれたことがあるんだ。犬の世話を条件に冷蔵庫を好きに扱っていいし、テレビも勝手に見てもいいし、勝手に風呂に入ってもいいし、夢のような生活だったんだ」
「というより普段君は1人暮らしで自由なんだからあまり意味ないじゃないの?」
「それぞれの家にはそれぞれの生活があって面白いんだよ」
「なるほど。実は僕も代行があってね。旦那さんが1か月間出張でいないから代わりに旦那さんをやってくれないか?と頼まれたという旦那代行サービスがあってね。若くて美人の奥さんと1日一緒にいたんだ。そして夜も一緒に寝て・・・営みもやったんだ」
「なんだって!?」
「するとある日奥さんが洗面所で吐き気を催しているんだ。まさか僕が気持ち悪かったのかな?と思ったら、奥さんが「あたし・・・できちゃったみたい」と。代行しているととうとう越えてはならないところまでやってしまったかもしれないんだ」
「おそらく今頃生まれた子供が君の顔にそっくりだったら本当の旦那さんはどう思うだろうね」
「でも実を言うとその旦那さんって僕の顔にちょっと似ていたんだ」
「それはそれでよかったね。もし別だったらと思うと怖いよね」
「代行っていろいろあるけどうまくいかないこともあるんだよね。それじゃ」
「また」